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2025.03.03

スッポンの概念を変えた「はがくれすっぽん」滋味深くもピュアな味わいは、どのようにして育まれるのか

「スッポンはクセと臭いがあると思われています。

しかに流通しているものは、そうしたスッポンが多いのも事実。ですが、はがくれすっぽんは違います。クセや匂いも少なく食べやすいのが特徴です。

かつては和食、割烹など限られた専門店からの注文が多かったのですが、最近はイタリアン、フレンチのシェフからの引き合いが増えており、“新しい食材”として注目を集めつつあるのを感じています」

(株式会社あさう 取締役 朝鵜大和)

 

スッポン料理と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、古くから伝わる滋養強壮の食材、また限られた専門店で提供されるもの、という印象を持たれている方も多いのではないか。日本では江戸期から広く食文化として浸透してはいるものの、 いわゆる“珍味”であり“高級食材”である認識が一般的だと言えるだろう。

つまり 〈特別な食材〉 という固定概念がどうしてもあるように思う。

しかし、スッポンは、「おもしろみのある食材」であり、実はあらゆる料理に活用できる汎用性の高い食材でもあるということを、声を大にして言いたい。

〈▲ スッポンを食する文化は3,000年以上前の中国が起源。日本においては1,000年以上前の縄文時代、一般的な食材として庶民にも広がったのは江戸時代とされている〉

スッポンが本来持っている食材としてのポテンシャル――それを最大限に引き出しているのが、今回紹介する「株式会社あさう」が手掛けるオリジナルブランド「はがくれ すっぽん」である。

実際、同社のスッポンは多くの料理人から「ゼラチン質が豊富で肉厚、臭みもなく、それでいて滋味深い」「大量の生姜や濃い味付けで臭みをごまかす必要がないため、スッポン本来の味を堪能できる」と高い評価を得ているという。

今や和食の料理店に限らず、イタリアンやフレンチのシェフらも取り寄せるという魅惑のスッポンは、どのようにして育てられているのか。佐賀市久保泉町にある養殖場を営んでいる朝鵜大和氏に話を伺った。

朝鵜大和/あさう・ひろかず。スッポンの養殖を行う「株式会社あさう」創業者の長男で取締役。スッポンに囲まれて育ち、中学生の時から家業を手伝い始める。養殖場を管理しながら東京、関西の市場、飲食店にも精力的に営業を行いオリジナルブランド「はがくれ すっぽん」の販路を拡大。料理人の経歴もあり、スッポンの新たなレシピを日々研究している。

「スッポンはとても臆病で神経質な性格なので、人の気配や音でストレスを溜めてしまいます。だから、人通り、車通りの少ない山間、“はがくれ”の里のような自然豊かな場所はスッポンを育てるのに最適な環境です」

そう語るのは「株式会社あさう」2代目の朝鵜大和氏だ。米農家であった彼の父(現会長)が、約50年前にこの地に休耕田の一部を利用してスッポン養殖を始めたことから、同社の歴史は幕を明けた。

「あの時代は父のように農家や建設会社が “兼業” として、スッポン養殖を始める人が多かったようです。スッポンは生命力の強い生き物なので、ある程度の場所さえ確保しておけば、誰でも養殖ができたんですよね」

かくいう朝鵜氏の父も同様で、当初は農業の副業として養殖業を行っていた時期もあった。

「当時は主に稚亀を飼育し全国のスッポン養殖場や海外へ卸していました。単価が低くなかなか商売として成り立たないから副業以上のことはできない。一方、米農家としても先行きが見えない状況だったんです。そうしたジレンマの中、父は中途半端なことはできないと農家を廃業して、スッポン一本でやっていくことを決断。しっかりと評価される自社一貫生産のスッポンを育てるべく環境を整えていきます」

以来、あさうでは、スッポンが活発に動く水温をキープし、通年出荷を可能としたハウス、産卵孵化場などを増設、さらに水質や池底の土壌管理、エサへのこだわりなど、朝鵜氏曰く「プロとして当たり前の仕事」を徹底していくことになる。

〈▲ 現在は15×50mが4つ、10×25mが4つと屋内外計8棟の養殖池でおよそ10万匹のスッポンを飼育。豊富な地下水を掛け流すなど、水質には最新の注意を払いつつ、県の水質検査機関のチェックも年1回受けている〉

 

良質の水、餌だけでなく“土壌”もスッポンには重要

〈▲ 池の水質管理も徹底している〉

「はがくれ すっぽん」の大きな特徴は、何と言っても“くさみがない”こと。それには良質な脊振山系の水、土壌、エサなどの生育環境が大きく関係している。

「池の水は、地下水をくみ上げたもので、 水質管理も怠りません。もちろん水だけじゃなく、池底の土の状態にも気を使っています。スッポンは池底の土に潜って過ごす時間も長いので、いくら水質が良くても土が汚れてしまうと当然身も臭くなってしまうのです」

〈▲ スッポンの産卵小屋も案内してくれた。外のいけすからスッポンが登ってくる〉

「だから私たちは定期的に“いけすを休ませる”ことを大事にしています。水を抜きスッポンを取り上げ、土を天日にさらす。そこに自然と草が生えてきて、土中の老廃物を吸収してくれる。そして草をむしり、浄化された土を耕して再びスッポンを入れる――というようなサイクルです。いけすの中だけでなく、通路にも除草剤はいっさい使いません。すべてスタッフによる手作業です。畑を耕すように池底や周辺のコンディションをよくすることで、スッポンにとっていい環境づくりをしています」

〈▲ 産卵小屋の土もこの通り。ストレスなく、また安全に産卵ができるように整備をしている〉

もちろん、与えるエサにも細心の注意を払っている。

「スッポンは雑食ですが、養殖用のエサの主成分は魚粉になります。その魚粉に各養殖場で栄養剤を添加するのが一般的です。しかしうちの養殖場では添加物などを与えたくないため魚粉をベースに自家菜園で採れたカボチャや漢方などを練り込んだ自然素材のみのエサを与えているようにしています。父は『自分の食べられないものをスッポンに与えるな』と再三言っていて、今でも自ら食べてチェックしています」

〈▲ 「いいスッポンは丸み、厚みのフォルムで、身は“淡い桃色”をしている」と話す朝鵜氏。腹側を見ると確かに納得。市場では主に1〜2kgのスッポンの需要が高い〉

食の多様化をうけ、スッポンが注目されている

「はがくれ すっぽん」は、豊洲市場はじめ、全国各地の市場や飲食店から注目を集めている。和食の料理人だけではなく、イタリアンやフレンチの有名店のシェフからの引き合いも増えつつあり、そうした新たな出会いがスッポンの食材としての可能性を拡張しているという。

「スッポンは頭の先と爪を除いて、ほとんど捨てるところのない食材。赤身、コラーゲン質、そして、しっかりと下処理をすれば内臓や甲羅、卵、白子も食べられる。代表的な鍋や唐揚げ、甘露煮だけでなく、洋食ではサラダやスープも含めコース全般に取り入れられたりもしています。店によって刺身として提供しているところもあります。脂身の刺身は馬刺しのタテガミに似たとろける食感でとっても美味しいですよ。スッポンは部位によっていろいろな使い方ができるので、新しい食材を求めている探究心のある料理人の方に、積極的に使っていただきたいですね」

今まで、スッポンを食べたことがないという人。もしくは一度食べたことはあるが、臭いが気になり敬遠するようになった人。そういった人たちにこそ「うちのスッポンを食べてほしい」と朝鵜氏。

「一般のお客様には鍋セットのお取り寄せがオススメです。スッポンの美味しさを知り尽くした生産者の視点で全国の料亭を食べ歩き、『うちのスッポンにはこれがベスト』というオリジナルの鍋用スープを作ったので間違いありません。これを食べていただければスッポンのイメージが変わるはずです」

〈▲ 今夏より鍋セットをはじめ、飲食店や家庭用の冷凍スッポンの販売も始めた〉

丁寧に育まれた「はがくれ すっぽん」の豊かな味わいは、シンプルな鍋料理から創造的な洋食まで幅広いシーンに溶け込み、料理人のインスピレーションを刺激する存在となりつつある。朝鵜氏や“チームあさう”がスッポン養殖に向き合う真摯な姿勢は、次なる料理の一皿に新たな輝きをもたらすことになるに違いない。

 

取材・文/上村敏行

撮影/水田秀樹

【株式会社 あさう】
住所:佐賀県佐賀市久保泉町2742-1
電話:0952-98-2262
https://www.asau.jp

朝鵜 大和 

朝鵜 大和 

株式会社あさう 取締役

スッポンの養殖を行う「株式会社あさう」創業者の長男で取締役。スッポンに囲まれて育ち、中学生の時から家業を手伝い始める。養殖場を管理しながら東京、関西の市場、飲食店にも精力的に営業を行いオリジナルブランド「はがくれ すっぽん」の販路を拡大。料理人の経歴もあり、スッポンの新たなレシピを日々研究している。

STORY

佐賀の豊かな自然と対話しながらこだわりの食材を生み出す生産者たち

400年以上続く伝統と技術を受け継ぎながら器づくりに向き合う作り手たち

料理人

佐賀の「食」と「器」の価値を引き出すことのできる気鋭の県内料理人たち