Language

2026.02.09

人と育て、人が繋ぐ。 行方ひさこが佐賀で感じた伝統の進化と継承/陶芸家 秋田菫さん編

第6回目は、唐津で作陶している若手作家 秋田菫さんを訪れました。東京から単身で唐津にやってきて、陶芸家 竹花正弘さんに弟子入りし、独立してからまだ数年足らずの秋田さんの工房でお話を伺いました。

秋田菫さん@nemunoha

 

1995年神奈川県生まれ。2018年に武蔵野美術大学陶磁専攻を卒業後、唐津で作陶する陶芸家 竹花正弘氏に弟子入りする。3年間の修行を経て2022年に独立、翌年に「ねむのは」という屋号を掲げ、築窯。唐津の山の中腹にある自然豊かな工房で、風情ある唐津焼をつくっている。

秋田菫さんとはじめてお会いしたのは、2023年のGWに行われた第11回「唐津やきもん祭り」でした。ちょうどその年は、陶芸家 矢野直人さんと共にイベントのポスターに出演させていただき、トークショーにも参加させていただいたりと、前々から好きで訪れていた唐津がグッと身近に感じられることが続きました。「唐津やきもん祭り」の会場の一つになっていた旧唐津銀行の地下に数人の作家がそれぞれのブースを構え、思い思いの作品を展示販売していた一角に秋田さんのブースもありました。独立したばかりの若い女性作家さんがいると以前から噂を聞いていたので、どうしても作品を見てみたくて小走りで向かい、ご本人に簡単なご挨拶をすることが叶ったのです。

唐津焼は、ほどよい素朴感と土の温かみの中に黒一色でさらりと描かれた絵が特徴的。自然の風景をそのまま切り取り、そこに載せられた雰囲気は自然そのもの。秋田さんの器は、そんな中でもさらりと優しくなんでも受け止めてくれる柔らかさと余白を感じます。今回はそんな若手女性陶芸家 秋田菫さんの移住の経緯や苦労、陶芸家としての日々を紐解くべく、お話を伺っていきます。

素敵な巡り合わせ

行方 : 「自然が豊かで素晴らしいロケーションですね。伸び伸びと作陶できそうな場所ですし、少し難しい場所にあるから隠れ家のような場所でもありますね。一体、この場所とはどういう出会いだったのですか? 」

秋田さん : 「ここは、空き家バンクの物件や不動産物件を月に1度程度見ながら1年半かけて探しました。自治体の空き家見学ツアーに参加し、たくさんの物件を見ることで空き家の見方や確認するポイントを学ぶ、良い機会になりました」

行方 : 「じっくり探されたんですね。自宅兼工房が同じ敷地内にあって、この立地と広さはすごく効率が良さそうです」

秋田さん : 「この土地で陶芸をしたいという方は、とにかく自分の条件にあった場所が見つかるまで、何件も諦めずに見に行った方が良いと思います。私の場合は、窯が作れる条件と自分の作品作りにとって良い環境だと思い、ここに決めました。詳しい情報は市役所の空き家対策室で相談すると良いと思います。わたしは、唐津市の空き家バンクの物件を改修する人に対して出る「改修補助金」を活用しました。

重労働な宝探し

行方 : 「作品を作る土はどこから手配していますか?近くにあります?」

秋田さん : 「釉薬は、この土地の黒い土で作ったりもしています。焼き物となる土は伊万里の方まで取りに行くことが多いです。ちょっと混ぜて一応使えるかって感じです。採ってきてテストして、というのを重ねている最中なので、買った土で補っています」

行方 : 「どんなものを探していますか?一人では大変ではないですか?」

秋田さん : 「そうですね、大変ではありますが、採るというよりは拾う感じです。砂岩のような石のようなビジュアルなんだけど、柔らかそうなものを探しています。大雨が降った後にたくさん道に落ちていたりするんですよね。師匠である竹花さんがそうだったので、私も土砂崩れをしているところに行って拾ってきたりもします」

行方 : 「宝探しですね!」

秋田さん : 「そうですね。キョロキョロしながら「あっちに行ってみよう、こっちが良さそうだ」と行き当たりばったりの時もあります。以前、土砂崩れがあった時に、その場所に落ちていた土は粘性があって良さそうだったので持って帰ってきました。辺りをしっかり掃除しつつもお宝発掘のような…他の人とは少し違う目線で見ているかもしれませんね(笑)。良い土が採れたと思っても、焼いてみるまで結果はわかりませんから、失敗が続いたりもします」

行方 : 「安定的に採れるわけではないと、土が足りなくなることもありますよね?」

秋田さん : 「どうですかね。同じ土にこだわって作っていたら、絶対にすぐ足りなくなると思うんですけど、みなさん流動的に楽しんでやっているのかな。メイン商品には、たくさん確保してある土を使っているんだと思います。私は、ベースの土がまだできていないので、メイン商品の土は購入したもので作っています」

行方 : 「安定ですもんね」

秋田さん : 「今は採ってきてはテストしての繰り返しです。材料である良い土を確保するのは、簡単ではないですね。ひび割れてしまったりと、色々とトラブルはあります。今は釉薬になるものの方が、安定しています。先輩方も、みなさん若い時に色々な土を採ってきてはテストして覚えていったようなので、師匠には見た目の特徴とか聞いたりしたのですが、違う場所で採るので全く見つけられないです(笑)」

行方 : 「教えてもらった同じ場所はダメなんですか?」

秋田さん : 「聞けば、いいよと言ってくれるとは思いますが、やっぱり自分で探し当てたいですね」

行方 : 「みなさん、土だけは被らないようにコソコソと採りに行くようになるんですね(笑)。それにしても体力がだいぶ必要ですね、土を担いで帰ってくるんですもんね」

秋田さん : 「そうですね、車が重そうにしてますよ(笑)」

行方 : 「そんなに持って帰ってくるんだ(笑)」

秋田さん : 「はい(笑)」

行方 : 「どこか他の土を使ってみたいと思いますか?」

秋田さん : 「九州は、私にとってすごくワクワクスポットなんです。特にどの地域がいい!といったこだわりがあるわけではないんです。いろんなところに土があって、個性豊かで本当に楽しい!まだまだ多くの場所に行って、いろんな土を試してみたいです。まだ天草にも行けてないですし、熊本にも行ってみたいです」

行方 : 「熊本の作家さんで、火山灰を釉薬にしたり、火山灰と土を混ぜて焼いている方もいらっしゃいますよ」

秋田さん : 「火山が多いって聞くと、それはそれでまたワクワクします(笑)」

行方 : 「土を求めて旅するの、楽しそうですね」

秋田さん : 「かつて日本と韓国が繋がっていた時期があるので、九州にはその繋ぎ目というか切れ端の部分が残っていると思うんですが、先輩が使っている土がすごく韓国っぽくてはっとしました。面白いちぎれ方をしてるんだなって」

行方 : 「土ってロマンがありますよね」

師匠との出会いと独立

行方 : 「秋田さんの師匠、竹花さんとはどんな出会いでしたか?」

秋田さん : 「最初に決めていた人がいたのですが、色々あってすぐに辞めてしまったんです。その時、唐津の作家さんをほとんど知らなかったので、一旦色々な工房を周ってから帰ろうと思った時に竹花さんと出会いました。私は食器を作りたかったのですが、唐津では茶器や壺を作っている人も多く、そんな中でも竹花さんの作っているものも、人柄も良いなと思ってお願いしました」

行方 : 「お弟子さんのポジションが空いてないと入れてもらえないですよね?」

秋田さん : 「私、初弟子でした。『弟子がいないらしいですが、弟子をとりませんか?』って感じでした(笑)」

行方 : 「私、どうですか?って(笑)」

秋田さん : 「薪窯を作りたいと思っていたので、竹花さんもご自分で薪窯を作っていたし、月に一回ほどは窯を焚いていたので、窯焚きの勉強もできるなぁと思いました」

行方 : 「住み込みの弟子だと、ほぼ自由時間もないし大変ですよね」

秋田さん : 「そうでもなかったんです。家に轆轤を置いてくださっていたので、自由に練習できました」

行方 : 「みなさん、本当に仲が良いなというのが私の唐津の印象なんですが、他の業界だとなかなか厳しい話も聞きますし、実際どうなんだろうって」

秋田さん : 「仲が良いです。かつての陶芸家の世界はかなり厳しかったと聞きますが、私の師匠は『無理せずできるのが一番いい』という感じでした」

行方 : 「独立のタイミングは?」

秋田さん : 「最初から3年と決まっていました。3年経ったら好きにしなさいと。」

行方 : 「では独立が近づいたらお家を探し始めたり……」

秋田さん : 「私は弟子入りして1年半くらいから探し始めました。まだ唐津でやろうと決めきれていなかったんですけど、どうせなかなか見つからないだろうと思って。探しているうちにやっぱり唐津がいいなと思ったので、本格的に探しました」

行方 : 「秋田さんにとって、唐津の魅力はどんなところですか?」

秋田さん : 「先輩方がすごく良くしてくれるんです。古唐津が好きな人たちの仲良しの輪があるんですよね。先輩方はよく陶片を見ながら色々意見交換をする会をしているのですが、そこにご一緒させていただいたりして、どんどん唐津焼の魅力にハマっていきました。あとね、ごはんが美味しいです(笑)」

行方 : 「ごはんが美味しくて住みやすくて、優しい先輩が近くで色々と教えてくれる。最高の場所ですね!」

秋田さん : 「産地としては珍しいらしいですね、どこの産地に行っても羨ましがられます」

一番の楽しみ

行方 : 「どのくらいの頻度で窯を焚きますか?」

秋田さん : 「目標は2ヶ月に1回ですね。この窯、そんなにたくさんは入らないんですよ。」

行方 : 「え!あー、そうか。かなり大きく見えますけど、壁が厚いですもんね。確かに中を覗いてみると、そこまでは広くないですね」

秋田さん : 「そうです。だから、身体が小さい方が便利です(笑)。窯の中のどこにどのうつわを置くのか考えるのがパズルのようで楽しいんですよ」

行方 : 「ご自分の窯だと余裕がありますね」

秋田さん : 「はい、楽しいです。何を焼いてもいいので(笑)っていうか気を遣わなくていいですからね。人の窯に入れてもらっている時は、「多すぎるかな、大きすぎるかな。ここに入れたいけど、ここはいい場所すぎるかなぁ」と色々と気を遣います。当たり前のことなんですけどね」

行方 : 「全て自分で決められますもんね。大変な作業だと思いますが、お手伝いしてくれる人はいますか?」

秋田さん : 「窯炊きは基本的に1人でやりたいタイプです。うちの師匠もそうでした。一番楽しい時間なので、その楽しみを1人で存分に噛み締めてます。好きな音楽を聴きながら、大声で歌ってる時もあリます(笑)。人と話すのがめんどくさい!とも思っちゃうんですよ」

行方 : 「楽しそうですね。とはいえ、立ったり座ったり重労働だし、熱いし大変ですよね。焼き上がりまで何時間くらいかかるんですか?」

秋田さん : 「はい、腰も痛いし目も痛いし大変な感じですけどね。でも、全てが自分で決められるので、一番好きな時間でもあります。焼き上がるまでは15時間くらいかな、時間が短い方です」

行方 : 「秋田さんの年齢で、自分で作った自分の窯があるってすごいことですよね」

秋田さん : 「1年半くらいかけて作りました。斜めの部分の造成だけしてもらって、階段を作って、薪置き場を作って……徐々にですね」

行方 : 「すごいなぁ!」

秋田さん : 「まだまだ全然です、直しながら使うものなので。毎回どこかしら壊れたりするので、大変は大変です。でも、面白いんですよ」

なんでも自分一人でスパッと決めて行動する男前なところと、師匠に「弟子にしてください!」と自らお願いをする積極性と、作品から感じる繊細な心配りと赤い果実のような可憐さと。唐津の先輩たちに可愛がられ、揉まれて、これからもどんどん進化し成長していく秋田さんの姿が目に浮かびます。秋田さんの切り取る「唐津の自然」が、作品にどう反映してくのか、見守っていきたいです。

行方ひさこ@hisakonamekata

 

ブランディング ディレクター

 

アパレル会社経営、ファッションやライフスタイルブランドのディレクションなどで活動。近年は、食と工芸、地域活性化など、エシカルとローカルをテーマにその土地の風土や文化に色濃く影響を受けた「モノやコト」の背景やストーリーを読み解き、昔からの循環を大切に繋げていきたいという想いから、自分の五感で編集すべく日本各地の現場を訪れることをライフワークとしている。2025年より福岡県糸島市にて「科学の村」をつくるため、学術研究都市づくりに参画。阿蘇草原大使。

Interview & text Hisako Namekata

Photo by Koichiro Fujimoto

 

 

 

PROJECT

STORY

佐賀の豊かな自然と対話しながらこだわりの食材を生み出す生産者たち

400年以上続く伝統と技術を受け継ぎながら器づくりに向き合う作り手たち

料理人

佐賀の「食」と「器」の価値を引き出すことのできる気鋭の県内料理人たち